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東京在住の30代が好きなモノやコトを記録するためのブログです。

ハイキュー!!とその最高の幕引き

2020年に全45巻で完結した『ハイキュー!!

シリーズ累計の発行部数は5000万部超え、アニメ化など様々なメディアミックス展開もされている、言わずと知れた人気漫画です。10巻くらいまで?単行本で読んでその後は追っていなかったんですが(連載期間8年半なので絶えず追い続けるのはなかなか大変…)、完結をきっかけに全巻通して読んでみたら、素晴らしい「物語」として幕引きを迎えていました。個人的に素晴らしいと思ったポイントを共有したく、まとめました。盛大にネタバレしていますので、お気をつけください。

ハイキュー!! コミック 全45巻セット

ハイキュー!! コミック 全45巻セット

  • 作者:古舘 春一
  • 発売日: 2020/11/04
  • メディア: コミック
 

 

 

 素晴らしいポイント①成長を描く物語としての最高の終わり方

人気漫画であればあるほど、その人気ゆえに終わりが引き延ばされ、結果として中弛みし、あそこで終わっていれば良かったのになと思うことが結構あります。スポーツ漫画だと、全国大会優勝後に二連覇を目指すけど一年目の面白さを超えられないとか。全国大会後に選抜編が始まり、これまでのライバルが仲間になるオールスター具合に盛り上がるけど途中から向かう方向が見失われれていくとか。次から次へと強いライバルを出せば、ストーリーとしてはどこまでも続くけれど、物語の主軸がわからなくなり、失速していく。その点、ハイキュー!!は最高の終わり方を迎えた物語ではないかと思います。 

 

ハイキュー!!は、主人公の日向翔陽がかつて強豪と言われた烏野高校のバレーボール部に入部し、身長は低いながらも持ち前のジャンプ力や運動能力を活かし、全国大会を目指すという物語。最終的に烏野高校は、県内の強豪校を破り春高に出場、善戦を続けるもののベスト8という結果に終わります。その後、残された二年生と一年生が新しいチームで全国優勝を目指すことにすれば、もっと長く物語を続けられただろうけれども、最終章はいきなり飛んで日向たちの高校卒業後。日向はブラジルへビーチバレー修行に向かいます。最初は、この最終章が蛇足だと思ったんですが、ハイキュー!!高校バレーの物語であると同時に、バレーボールに魅せられた日向翔陽が、最後までコートに立ち続けたい、いつまでもバレーをし続けたいと成長する物語なのです。この原点に立ち返ると、高校編をそのまま続けるよりも納得の展開で、コートに立ち続けるために必要な日向翔陽の成長が丁寧に描かれています。

日向はもの凄いスピードで成長していくけれど、中学時代はたった一人のバレー部員でろくに練習もできず、高校はヘタクソな状態からスタートし、いくら運動能力が優れていても身長が低いという圧倒的な不利を抱えている。高校三年間どんなに頑張っても、他の素晴らしい選手たちも同じように頑張っているわけで、それだけで日向がコートに立ち続けるのは不可能だからこその、二年間のビーチバレー修行なんだと思います。日向たちが二年生の時の春高はベスト16、三年生は三位と、高校三年間の結果がたった1ページで説明されていることで、頑張ったからって優勝は簡単ではない、そんなに甘くないんだよと言われているような気がします。

ビーチバレー修行では、インドアとは違い二対二で戦うビーチバレーだからこそ、レシーブやトスなど全体的な技術が磨かれるのですが、同時にブラジルという慣れない異国の地で、食事や睡眠、メンタルなど毎日の過ごし方に気をつけ、常に万全を期そうとしている日向の姿が印象的でした。なぜなら、彼は春高準々決勝の鴎台戦で、発熱のために第3セット途中で退場し、チームも負けてしまうという悔しさを知っているから。彼の心には、その時にかけられた顧問の武田先生からの言葉が深く刻まれている。高校時代は呼ばれてもいない宮城県一年生選抜合宿に乗り込むなど、強くなりたいと焦って行動することが多かったけれど、上手くいかなくてもただむしゃらに頑張るのではなく、冷静に思考し積み重ねていこうとする姿に技術面だけない大きな成長を感じました。


この先絶対にこんな気持ちになるものかと刻みなさい。
どうしようもない事は起こるでしょう。その度に注意深く刻みさない。

君は将来金メダルと取ると言った。何個も取ると言った。

そして君は今”がむしゃら”だけでは超えられない壁があると知っている。その時必要になるのは知識・理性・そして思考。日向くん、今この瞬間も「バレーボール」だ。勝つことを考えてください。

君の身体はこれから大きくなるでしょう。けれどネットという高い壁越しに行う競技で、190cmが「小柄」と言われるバレーボールの世界では、きっと君はこれからもずっと「小さい」。他人よりチャンスが少ないと真に心得なさい。そしてその少ないチャンスをひとつも取り零すことのないように掴むんです。
…君は。君こそはいつも万全でチャンスの最前列に居なさい。

(41巻第356話「終わりと始まり・2」P.166〜P. 169)

ハイキュー!! 41 (ジャンプコミックスDIGITAL)

要所要所で名言を残す武田先生。なかでも、悔しさに震える日向にかけるこの言葉が、私には一番響きました。このとき、武田先生は29歳。どんな人生経験をしてきたの、武田先生…。

 

そして、ハイキューという物語のもう一つの軸は、中学最後の大会でボロ負けしたものの、数奇な巡り合わせで高校ではチームメイトとなった影山飛雄とのライバル関係。どちらが長くコートに立ち続けることができるかと、日向と影山が切磋琢磨しあう関係性がベースに描かれているので、ビーチバレー修行から帰国した日向がプロチームに所属し、同じプロとして影山と対戦するのは、彼ら二人の成長を見せる舞台として最高だったと思います。最後、日向と影山が日本代表としてまた一緒に戦い、そして世界選手権大会決勝では敵チームとなって対戦するという終わり方も、そうやってバレーボールに魅せられた二人は敵になったり味方になったりしながら、コートに立ち続けていくのだろうという余韻を感じさせてくれました。全巻通して読んでみると、高校バレーの青春を鮮やかに描きながらも、コートに立ち続けたいという日向と影山の強い思いが常に中心にあることがよくわかります。物語のメインテーマはずらさず、素晴らしい幕引きを迎えた物語だと思います。

 

 

素晴らしいポイント②及川徹が示す、努力は報われるということ 

天才セッターと呼ばれながら、独断的なプレーで中学最後の大会で孤立してしまう影山飛雄。ハイキュー!!は、日向のチームメイトでライバルの彼が成長していく物語でもあります。その天才影山が、一生勝てないかもしれないと言う存在が、中学の先輩であり、青葉城西高校のキャプテンでセッターの及川徹です。チームメイトが誰もトスに応えてくれず、”コート上の王様”と揶揄された影山とは対照的に、チームの力を最大限に引き出すセッターとして描かれています。同時に、センスがあり努力も惜しまないが、影山と比較した時に「優等であるが天才ではない」と作中で言い切られているのが及川徹です。

 

及川は負けず嫌いで本当に努力を惜しまない選手ですが、チームとしては負けないけれどトス回しでは影山に敵わない、いつかはお前(影山)に負けるかもしれないと、どこか”天才”ではない自分に限界を感じているところがあります。高校卒業後もバレーを続けるのか、どこかで区切りをつけるか、悩む姿も描かれています(本当のところは、辞める理由ではなく、辞めない理由を探していたのですが)。そんな彼が真に吹っ切れたと見えるのが、烏野との春高予選の第3セット。コート外から、レフト位置のエースの岩泉に超ロングセットアップを決め、

 

才能は開花させるもの。センスは磨くもの!!!

(17巻146話「才能とセンス」P.40〜P.41) 

ハイキュー!! 17 (ジャンプコミックスDIGITAL)

と見出すのは、ハイキュー!!の中でも屈指の名場面だと思います。

 

極限スイッチ

極限スイッチ

  • 発売日: 2016/03/23
  • メディア: Prime Video
 

↑ アニメだと2期24話が該当回。無理な体勢からトスをあげてひっくり返った及川は、すぐさま立ち上がりコートに戻ろうとします。一歩取られながら急いで戻ろうとする動作がアニメでは加えられていて、彼のはやる気持ちが伝わってきます。アニメも超おすすめです。

 

”自分は天才とは違うから”と嘆き諦めることを辞め、”自分の力はこんなものではない”と信じてひたすらまっすぐ道を進んでいくことを決めた彼は、高校卒業後アルゼンチンリーグでプレーすることを選びます。そして最終回では、日向や影山たち擁する日本代表とオリンピックで対戦するアルゼンチン代表のセッターとして登場。帰化してアルゼンチン代表となった及川に一瞬非現実さを感じたのですが、彼のそこに至るまでのきっと辛く苦しかったであろう道のりに想い馳せると、これは努力が報われる、希望を与えるエンディングなのだと認識を改めました。

”自分の力はこんなものではない”と信じて進むことは、どこまで頑張れるか自分との戦いであり、決して簡単なことではないはず。世界トップレベルで競うとなると、それはひとしおでしょう。順当にバレーの道を進むのであれば、及川はスポーツ推薦で大学に入り、Vリーグを目指せば良かった。でも、それでは足りないと考えたからこそ、一人アルゼンチンに渡ることを選択したのだと思います。日向のブラジルでのビーチバレー修行もだと思いますが、先例のない道というのは、成功の確証がなく、自ら切り開かねばならない苦しい道。春高予選の烏野戦後、影山に並ぶ勝てない相手であった牛島から、自分のいる白鳥沢に来なかったのは”取るに足らないプライド”のために間違えた選択であると言われますが、及川が”取るに足らないプライド”で選択した道は決して間違えていないと見返したのが、あのオリンピックシーン。”俺は全員倒す。覚悟しとけ”と言ったよね、俺はここにいるぞ、と。個人的に、及川徹は、主人公・日向翔陽とライバル・影山飛雄に並ぶ、バレーボールに魅せられバレーボールに献身する人物だと思います。だから、彼の献身がちゃんと報われているのだと、最終回で描かれたことに救われた気持ちになりました。それは、私たちが日々葛藤し頑張る何かも報われる瞬間が来ると励ましてくれているように思いました。 

 

ハイキュー!! 17 (ジャンプコミックスDIGITAL)

ハイキュー!! 17 (ジャンプコミックスDIGITAL)

 

 

 

素晴らしいポイント③登場人物たちを駆動するバレーボールの楽しさ

ハイキューの登場人物たちをバレーボールへと駆り立てるモチベーションとは何だろうか。それは、できなかったことができるようになった時の快感、バレーボールの楽しさだと思います。ハイキューは、登場人物たちが感じたバレーボールの楽しさをドラマティックに描いていて、それが私たちの心を震わせます。

 

月島蛍のバレーボールにハマる瞬間

彼らが出会ったバレーボールの楽しさのうち、最もドラマティックなのが、烏野高校の月島蛍がバレーボールにハマる瞬間だと思います。主人公の日向に対して190cm近い恵まれた体格であり、クレバーで器用ながらも、バレーボールは”たかが部活”と一線引いているのが月島。強豪と言われた頃の烏野高校バレー部に所属していた兄が、頑張っても三年間一度もレギュラーになれないまま終わったことが月島少年の心に影を落とし、どんなに頑張っても将来どうなるわけでもないから程々で良いと、傷つかないよう殻に閉じこもってしまっている。 熱いメンバーが多い烏野では異色の存在です。そんな月島が、ブロックの司令塔として開花するのが、春高予選の白鳥沢戦。全国で三本指に入るスパイカー牛島を擁する白鳥沢の強烈なスパイクをブロックし続け、ワンタッチを取り続けます。冷静で執拗なブロックに苛立ちを積み重ねた白鳥沢のセッターがトスを乱したのを見逃さず、それを決めようとした牛島のスパイクを完全にシャットアウト。烏野は月島のこのブロックで第2セットを取り返します。

 

たかがブロック一本。たかが25点中の1点。たかが部活

(19巻163話「月の輪」P.33〜P.35)

ハイキュー!! 19 (ジャンプコミックスDIGITAL)

と思いながら、ガッツポーズを決める月島がめちゃくちゃかっこいい。このガッツポーズ、見開き1ページでセリフもなく描かれているのですが、クールな月島の気持ちが溢れていることが伝わってきます。

 

月の輪

月の輪

  • 発売日: 2016/10/30
  • メディア: Prime Video
 

↑アニメの方もかっこいいのでぜひ(3期の第4話「月の輪」です)。

 

この試合をきっかけに月島はブロックの要として、烏野にとってより一層欠かせない存在となっていくのですが、最終回では大学卒業後に地元仙台のVリーグチームに入っています。チームメイトとなったかつて対戦した青葉城西の京谷から、日向や影山たちのオリンピックの試合を見ないのかと聞かれ、

 

どうしても「動かなきゃ」って思っちゃうんですよね。そいつらをみてると

(45巻最終話「挑戦者たち」P.198)

ハイキュー!! 45 (ジャンプコミックスDIGITAL)

と答える。”たかが部活”と言っていた月島が、です。上には上がいる。きっと月島は日本代表に選ばれることはない。でも、それは月島にとってバレーボールをやらない理由にはならない。彼は、もうバレーボールの楽しさを知ってしまったから。バレーボールに出会ったことで月島の人生が変わったと感じさせる、胸熱な最後だったと思います。

 

ハイキュー!! 19 (ジャンプコミックスDIGITAL)

ハイキュー!! 19 (ジャンプコミックスDIGITAL)

 

 

 

名シーンだらけの稲荷崎戦

春高二回戦の稲荷崎戦では、インターハイ2位の実績を誇る強豪稲荷崎に対して、烏野メンバーが次々とこれまでを超える成長を見せます。個人的には、ハイキューの数ある試合の中でベストゲームだと思っています。

次期エースである田中が、スパイクが決まらない不調を精神的にも乗り越え、超インナースパイクを決めて第一セットを取ったり。(さらっと1行で書いてしまっているけど、田中が本当に精神男前すぎる。)

稲荷崎のビックサーバー宮侑のジャンプフローターサーブを、リベロの西谷が苦手だったオーバーで見事とらえ、宮侑のサーブを一本で切ったり。西谷はいつも男気があってかっこいいんですが、そんな彼の背中を押したのが、ベンチメンバーで同学年の木下というのがまた良くて。西谷がいつもの癖で一歩下がってアンダーでレシーブしようとしたのに木下が気付いて、ベンチから『前ッ』と声をかける。西谷のレシーブから烏野の攻撃が決まり、コート内のみんなで喜んでいるなか、西谷がベンチの木下を指差してガッツポーズ。最後に「守護神のヒーロー」と、その回のタイトルが出るんですけど、木下は試合ではすごい活躍はしてないけど、守護神の西谷にとってのヒーローで。晴れ舞台の裏側で積み重なっている日常の頑張りや関係性の尊さを感じさせてくれます。

とにかく名シーンだらけの稲荷崎戦なのですが、やっぱり一番は第3セット中盤の日向のレシーブ。稲荷崎のスパイクが決められたと思ったところに日向がいて、綺麗にレシーブを返す。日向はずっとレシーブもサーブも、基本的な技術は全部ヘタクソと言われていました。春高前に無理やり乗り込んだ宮城県一年選抜合宿以降、もっと上手くなるためにはどうすればいいかと深い思考が伴うようになったのですが、それが結果として現れたのが、このレシーブです。日向が拾った!と、思わず烏野チームの一人のように歓喜してしまいます。そして、レシーブした時の日向は、できたことの感動と興奮を噛み締めているようで、めっちゃくちゃいい表情しています。

「ハーケン」

「ハーケン」

  • 発売日: 2020/11/29
  • メディア: Prime Video
 

↑日向の名レシーブは、4期22話で見れます。

 

 

対戦チームの稲荷崎のセッター宮侑も、印象に残る「バレーボールに魅せられ献身する」一人です。第3セット、乱れたトスの下に滑り込んで、苦しい体勢からオーバーでセット。アンダーでセットすればいいじゃんとチームメートの角名に言われたのに対し、

 

アンダーは腕2本。オーバーは指10本。
よりいっぱいのモンで支えたんねん。セッターやもん。

(32巻279話「愛」P.23〜P.24)

ハイキュー!! 32 (ジャンプコミックスDIGITAL)

と答える。その時の表情が子どものように無邪気な笑顔で、本当にセッターが好きなんだろうなぁと伝わってきます。彼はセッターとしてだけでなくサーバーとしても優れた選手で、超剛球のスパイクサーブと超変化のジャンプフローターサーブの二刀流で烏野チームを苦しめますが、プロになると2つの中間のハイブリットサーブも加わって三刀流サーバーに進化します。もちろんそこに至る過程には不調や努力もあって、双子の相方の宮治にうまくいかないことを愚痴るのですが、彼が口にするのは”やらなあかん”ではなく”かっこいいから、やりたい”。宮侑はいつもバレーボールに対して”Must”ではなく”Want”であり、それって簡単なようで難しいことで、強く成長し続ける上で不可欠な要素なのだと思います。宮侑とバレーボールの関係性は、双子の宮治の言葉が一番端的に表していると思います。ユース合宿のメンバーに選ばれた侑に、選ばれなかった治が、二人の差を語った時の


侑の方が俺よりちょびっとだけバレーボール愛しとるからな

(32巻279話「愛」P.17)

ハイキュー!! 32 (ジャンプコミックスDIGITAL)

という言葉。運動神経とか、センスとか、努力とか、賢さとか、強くなる上で必要なものはたくさんあると思いますが、最後に差を分けるのは、全然論理的に説明できない”愛”。それが宮侑の原動力なんですよね。

 

ハイキュー!! 32 (ジャンプコミックスDIGITAL)

ハイキュー!! 32 (ジャンプコミックスDIGITAL)

 

 

 

最後に

何かに夢中になってそのために努力を続けることが、どんなに難しく、尊いことか。大人になると、より実感します。気づくと、しなきゃいけないに囚われてしまっている。だからこそ、バレーボールに魅せられ、愛し、献身するハイキュー!!の登場人物たちの、時に挫折を感じながら、時に何かを成し遂げ、前に進んでいく姿が私たちの心を打つのだと思います。感動をありがとう。